痛覚変調性疼痛・薬物乱用頭痛

3種類の痛みと、それぞれの治療~痛覚変調性疼痛とは

ヒトの「身体の痛み」には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛の3種類があります。片頭痛は主に侵害受容性疼痛と思われますが、適切な治療(トリプタンや予防薬)を使わず、繰り返し片頭痛が起き続けることで、痛覚変調性疼痛を合併しうると考えられています。様々な片頭痛専用の薬があるのは、片頭痛自体のメカニズムが非常に複雑かつ、個人差が大きいためです。

侵害受容性疼痛

いわゆる普通の痛みのことです。怪我や、腫れたときの痛みです。皮膚や筋肉など、「現場」で痛いことが起きた情報が神経を通って脳に伝わり、痛いと感じます。この時、神経と脳は正常に機能しています。普通の「鎮痛薬」はこの痛みのための薬です。2種類で、現場(=炎症が起きている)に効くのがNSAIDs(エヌセイズ)、脳に効くのがカロナール(アセトアミノフェン)です。頭痛では、緊張型頭痛が代表です。緊張型頭痛は、表情筋(ひたい)や咬筋(こめかみ)、僧帽筋(後頭部から首にかけて)、外眼筋(目の奥)などの筋肉に負担がかかりすぎ、痛みを発します。

神経障害性疼痛

神経や脳自体に、損傷があるときに起こります。有名なものに、椎間板ヘルニア、三叉神経痛、帯状疱疹があり、頭痛では後頭神経痛が該当します。痛みを伝える神経の問題なので、痛い場所には何も異常はありません。電流が流れるような強い痛みであり、突然痛みが出ては消えます。心拍のように脈を打つことはまずありません。弱い場合は、痺れとして感じられます。原因の多くは神経の圧迫ですが、原因不明の場合も多いです。後頭神経痛の場合は、もともと後頚部の筋肉が後頭神経を挟む構造になっていて、その圧迫が強くなって起こるとされています。理論上、侵害受容性疼痛に使われる鎮痛薬は無効であり、神経障害性疼痛治療薬を使います。タリージェ(ミロガバリン)、リリカ(プレガバリン)が代表です。神経が自然に修復されるには数日から数週間、長いと数か月かかることがあり、根気よくこうした薬剤を使う必要があります。メチコバール(ビタミンB12)は、神経の修復を早めるとされます。

痛覚変調性疼痛

2021年に日本疼痛学会など痛み専門の国内8学会の連合で定められた用語です。侵害受容性疼痛でいう「現場」に異常はなく、神経障害性疼痛の原因になる神経や脳の損傷が無いのに、とにかく常に痛い、という状態です。片頭痛など、様々な「痛い病気」が原因となって、追加で起こる現象で、痛覚変調性疼痛自体が最初から起こる訳ではありません。痛覚変調性疼痛の説明は難しいのですが、「痛い出来事が繰り返されることで、より痛みを感じやすく敏感になっている状態」「痛みを繰り返すことで、脳にとっては痛みを感じる練習になってしまい、痛みへのハードルが下がってしまい、小さな痛みでもすぐに強い痛みと感じてしまう状態」です。片頭痛の場合なら、片頭痛が多く起こると、片頭痛そのものの痛みに加え、痛覚変調性疼痛が追加されてしまい、なんだかよく分からないけれど、ほぼ毎日頭が痛い、という状況となります。治療薬として、トリプタノール(アミトリプチリン)、サインバルタ(デュロキセチン)が使われます。両者とも、うつ病にも使われますが、うつが治って痛みが取れる訳ではなく、脳の中でセロトニン・ノルアドレナリンという物質を増やす作用で、脳の「痛み方」を「正常な鈍感さ」に戻す仕組みです(うつは無関係)。「原因となる元の痛みをコントロールしながら」「十分な量のトリプタノールやサインバルタ」を「十分な期間」使用することで、治ることが期待できます。当院での片頭痛治療では、これらの薬で痛覚変調性疼痛をゼロに近づけ「普通の片頭痛」だけが残る状態とし、最終的に片頭痛専用の治療のみでコントロールすることを目指します(実際は、医師が診察しながら、なるべく両方同時進行で治療します)。

薬物乱用頭痛とは

薬物乱用頭痛とは頭痛薬を飲む回数が増えて、そのことで頭痛の症状が悪化・慢性化してしまっている状態で、薬剤の使用過多による頭痛です。頭痛薬を常用していると脳が痛みに過敏になり、ちょっとした刺激で強い痛みを感じるようになります。結果的に頭痛が起こる回数が増えて痛みも強くなり、症状を悪化させます。薬剤によるものということを知らずにいると、頭痛薬を飲む頻度が増えてさらに頭痛が悪化して、薬の効果もさらに薄くなります。頭痛薬を毎月10回以上飲むという場合は、薬物乱用頭痛の可能性があります。
片頭痛や緊張型頭痛などの頭痛がある方の発症が多く、市販薬によるものがほとんどを占めます。医師が処方する鎮痛薬でも薬物乱用頭痛になる可能性はありますが、頭痛外来の専門医であれば薬物乱用頭痛になるリスクのある処方をすることはありません。

こんな症状はありませんか?

  • 頭痛が月に15日以上ある
  • 頭痛薬を月に10回以上飲んでいる
  • 頭痛薬が効かなくなってきた
  • 起床時にも頭痛がある
  • 薬を飲んでも頭痛が強くなってしまう
  • 頭痛の程度、痛む場所などが以前とは異なっている時がある
  • 毎月数回程度の片頭痛があって薬を飲みはじめた
  • ひどい頭痛を経験して、それから予防的に市販薬を服用してしまう

また、常用している頭痛薬が、複数の主成分を持っている場合、そしてカフェイン(無水カフェイン)が含まれている場合は薬物乱用頭痛になるリスクが高いとされています。
市販の鎮痛薬の大部分に、カフェインが含まれていることは、注意が必要です。たくさん内服した場合、時に薬そのものよりも、カフェインが過量になることが問題となります。
同成分でも病院からの処方であれば、そうした事態は避けることができます。

診断と治療

診断と治療問診で、患者さまから症状の内容や変化、もともとの頭痛の症状、服用している薬や服用頻度などをくわしくうかがいます。薬物乱用頭痛と判断された場合には、まず薬の服薬を中止することが重要です。原因となる薬剤の服用を中止しますが、そのままでは離脱頭痛という激しい頭痛が起こりますので、薬物乱用頭痛の原因にならない薬剤や予防薬を処方します。
それでも最初の1週間から2週間くらいはつらい状態が続きますが、次第に頭痛が起こる回数や痛みの強さが緩和しはじめます。薬物乱用頭痛が治った後に、もともとあった片頭痛や緊張型頭痛などの治療を行います。薬物乱用頭痛は比較的再発しやすいので、もともとの頭痛も専門医による治療でしっかりコントロールすることが重要です。

頭痛が起こる回数や強さが増した場合は、ご相談ください

「薬物乱用頭痛」という名称は違法薬物を連想される方も多いと思いますが、一般的な市販頭痛薬の常用によって起こるケースがほとんどを占めます。慢性的な頭痛がある方は薬物乱用頭痛になるリスクが高く、発症すると悪循環を起こして頭痛が悪化してしまいます。また、いったん治まっても再発しやすい傾向があります。
頭痛外来で専門医による治療を受けることで薬物乱用頭痛は解消できますし、その後で薬物乱用頭痛になるに至ったもともとの頭痛も治せます。放置していると症状が悪化しやすいため、早めのご相談をおすすめしています。

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